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単年度基準の投資利回り

不動産投資における最初の判断材料として、よく使われるのが「単年度基準の投資利回り」です。これは1年間の収益性を示す指標で、物件の魅力度や投資判断の初期検討において有効な基準となります。

単年度利回りの計算方法

基本的な計算式は以下の通りです。

投資利回り = 純営業収益(NOI) ÷ 総投資額

ここでいう「純営業収益(NOI: Net Operating Income)」とは、不動産から得られる年間の営業収入から、管理費や修繕費、固定資産税などの運営費用を差し引いた金額です。減価償却費や借入金の利息などは含めず、あくまで不動産の運営によって得られる純粋な利益を指します。

一方の「総投資額」は、不動産の取得費用(物件価格+諸経費)に加え、初期リフォーム費用や契約関連費用などを含めた総額です。投資家が最初に用意する全体の資金を意味します。

キャップレート(Cap Rate)としての活用

この単年度利回りは、別名「キャップレート(Capitalization Rate)」または「総合還元利回り」とも呼ばれます。キャップレートは、不動産評価の場面でも使われる重要な概念で、特定の物件の現在価値を次のように計算する際に用いられます。

不動産価値 = 純営業収益 ÷ キャップレート

たとえば、年間のNOIが100万円で、想定キャップレートが5%であれば、その物件の理論的な価値は「100万円 ÷ 0.05 = 2000万円」となります。

このようにキャップレートは、逆算して物件価格の妥当性を評価する指標としても使えます。

注意したいポイント

キャップレートはあくまで「単年度」の指標であり、将来のキャッシュフローやリスク要因は考慮されていません。そのため、以下のような注意点があります。

  • 将来的な空室率や家賃下落リスクは反映されない

  • 大規模修繕などの臨時支出は考慮されない

  • 借入金の影響(レバレッジ)を含まない

つまり、キャップレートは「物件そのものの収益性をフラットに見る」には適していますが、投資家ごとの事情(資金調達、税負担など)を考慮した総合判断には向かない面もあります。

キャップレートを見るときの実務的な視点

同じ利回りでも、エリアによって想定されるリスクが異なるため、「東京23区で利回り4%」と「地方都市で利回り8%」が単純に比較できるわけではありません。高い利回りにはそれだけ高いリスクが含まれている可能性があるからです。

また、築年数や物件規模、用途(住居・店舗・倉庫など)によってもキャップレートの相場は異なります。「相場のキャップレート」と「実際の物件利回り」を比較し、割安かどうかを見極めるのもひとつの戦略です。

入口の指標としての利回り

キャップレートは、不動産投資の“入口”で物件を評価するための簡潔で有効な指標です。ただし、将来的な運用のブレや投資家固有の条件は反映されないため、NPVやIRRといった複数年の収益性を見る指標と併せて使うことで、より的確な判断につながります。

数字の裏にある背景や前提をしっかりと把握しながら、バランスの取れた投資判断を目指しましょう。

reona: